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膨らむ要素は、すべて揃った。それでも膨らまない理由。

  • 豆のままで購入したし
  • コーヒーミルも持っているので、挽き立て
  • 挽き具合だって、送ってもらった挽き加減サンプルと同じくらい

「それでも、今まで飲んできたコーヒーと比べると、モコモコと膨らまないんです…
味には満足しているけど、膨らみだけはもう一歩足りないんですよね。」
 
当店のコーヒーをお選びいただいたのは、味だけでなく、焙煎したてでよく膨らむことを期待して、ご購入いただいているのではないでしょうか。
 
でも、このような経験があると、不安になってしまいますよね。

これまで、様々な実験を通じて、膨らまない理由があることをお伝えしてきました。
 
それで、解決してきた方も沢山いらっしゃると思うのですが、冒頭でお話した方のように、
「他のコーヒーと同じように淹れているのに、きゃろっとのほうが、いまいち膨らみが悪い」
 
と、聞かれることがありました。
 
「淹れ方を変えても膨らまないということは、やっぱり鮮度が古い物を送ってきているんじゃ…!?」 当然そのように思わ気持ち、とっても分かります。
 
ですが「鮮度」は、きゃろっとで最も大切にしていることのひとつです。

「コーヒーを通して、あなたのライフスタイルを豊かに…」
という、きゃろっとのコンセプトは、一度きりではなく、人生を寄り添うようなコーヒーをお届けし続けたいという思いがあります。
 
長いお付き合いのなかで、私たちが最も大切にしているのが「鮮度」「品質」そして「正直、誠実であること」。
 
古いコーヒーを送っては、結果的にお客様への信頼を裏切り、長いお付き合いはできません。
それは、お客様にとってもメリットがないですし、あえて古い豆を送ることは私たちにとってもメリットがないとも考えています。
 
きゃろっとでは、9割以上の方が定期便のお客様です。
定期便ですと、計画的に焙煎スケジュールを立てることもできるため、古い豆を在庫することが一切ないような仕組みづくりができています。
毎日焙煎をして、その都度詰めて配送する、という流れですね。
 
あれ?ちょっと宣伝みたいになってしまいました(笑)
 
本音を言うと、ここまで鮮度にこだわているのに~「とっても悔しい!」そして「申し訳ない!」そんな気持ちなんです。
 
新鮮で高品質なものを送っているのに、そして、価値をもって購入してくれているのに、安価なコーヒーより膨らまないとなると…、 お客様も悲しいですよね。
 
飲んだ時の味わいがもっとも大切なのですが、いくら美味しくても、膨らみにくいという事実が、美味しさを半減してしまう気持ちもわかるんです。
 
でも、どんなに私が鮮度の主張をしても「膨らみにくい」という変えられない事実。
 
これには、必ず理由があるはず。
解明したい!という思いから、今までにはなかった2つの仮説を立ててみました。

  1. コーヒー豆自体の品質差が、膨らみに影響するのではないか
  2. 同じ品質の豆を使用しても、焙煎方法の差が、膨らみに影響するのではないか

もしこれで違いが出れば、膨らまない原因に対して、新しい発見になりますね!
そして、お客様も安心してきゃろっとのコーヒーを楽しむことができますよね。
 
ということで、冒頭が長くなりましたが、品質の差による膨らみの違いを、きゃろっと実験室で検証してみましょう!

品質の違う2種のコーヒー

きゃろっとで取り扱う豆は、すべてスタッフでカッピングをして、決定しています。
 
クリーンであること、フルーティーで特徴的であることなどを考慮して、みなさまに喜んでいただけるようなコーヒーを厳選しています。
 
この味覚検査以外にも、きゃろっとに到着した豆は水分量や水分活性値、密度などを計測し、オリジナルの生豆品質スコアを出しています。
 
今まで200種類近い銘柄のスコアを計測したところ、一部例外はありますが、このオリジナルスコアが高いほどカッピングした際のスコアが高いことが分かりました。
 
逆に、スコアが低いコーヒーは、カップスコアも低く、ほとんど、カッピングスコアと生豆の品質スコアが比例します。
 
このスコアを用いて、品質スコアとカッピングスコアが高い豆と低い豆を同じ条件で焙煎し、膨らみ具合を比較してみました。
 
※品質スコアは、18点以上で品質が高く、今までの最高得点が28点
※14点以下になると、品質が低いことが多く、今までの最低得点が12点

使用したサンプル

今回使用したスコアが高い豆

コロンビア・ヴィラ・ファティマ ※きゃろっとで販売するスペシャルティーコーヒー品質

品質スコア  = 21点
カッピングスコア = 84点

今回使用したスコアが低い豆

ニカラグア・SHG ※きゃろっとでは販売していないハイコマーシャルコーヒー

品質スコア = 14点
カッピングスコア = 76点

実験方法

全く同じ焙煎プロファイルで焼き、銘柄・品質差による膨らみの違いを検証しました。
 
使用した焙煎機は、井上製作所の4kg窯。
 
それぞれ1.5kgを焙煎し、中煎りは216℃。深煎りは226℃で排出します。
※焙煎終了の温度は、豆表面の雰囲気温度を計測

  1. ニカラグア・SHG 中煎り 214℃
  2. コロンビア・ファティマ 中煎り 214℃
  3. ニカラグア・SHG 深煎り 224℃
  4. コロンビア・ファティマ 深煎り 224℃

この4つのコーヒーを、焙煎10日後、焙煎20日後にKONOの名門ドリッパーで抽出しました。

結果

6月18日(焙煎10日後)

1. ニカラグア・SHG 中煎り 214℃
2. コロンビア・ファティマ 中煎り 214℃

焙煎10日後、焙煎終了温度214℃
浅野大地
浅野大地

中煎りでは、膨らみに大きな違いは見えませんでした。

二投目に出てくる泡が異なり、①ニカラグアよりも②ファティマの方がきめ細かい泡がでていますね。

3. ニカラグア・SHG 深煎り 224℃
4. コロンビア・ファティマ 深煎り 224℃

焙煎10日後、焙煎終了温度221℃
さーやん
さーやん

深煎りでは、1湯目を注いだ瞬間から粉の色に違いが出ました!
ニカラグアに比べ、コロンビアは泡が白い。しかも、 膨らみかたもニカラグアの方が良く膨らみましたね。
 
焙煎度(焙煎終了温度)を合わせても、品質の違いにより火の入り方が違うことが分かります。
 
10日後の時点で、品質による膨らみ方の大きな差はありませんでした。
※今回は、膨らみの比較ですが、味はもちろん、差がありましたよ
やはり、クリーンカップの差が大きく、ニカラグアは、冷めるとザラザラとした味わいが際立ちました。

6月28日(焙煎20日後)

1. ニカラグア・SHG 中煎り 214℃
2. コロンビア・ファティマ 中煎り 214℃

焙煎20日後、焙煎終了温度214℃
浅野大地
浅野大地

中煎りから、違いが表れました。

ニカラグアの方が膨らみが維持されていますが、 当店で販売しているファティマは、膨らみが弱くなっています。

3. ニカラグア・SHG 深煎り 224℃
4. コロンビア・ファティマ 深煎り 224℃

焙煎20日後、焙煎終了温度221℃
さーやん
さーやん

一目瞭然ですね!
深煎りでも同様に、ニカラグアの方が膨らみました。

考察

仮説の通り、焙煎度が同じでも、品質が違うと膨らみ方に差が生まれることがわかりました。
 
ローグレードコーヒーのほうが、時間が経っても膨らみが続きます。
 
品質が低いほど、よく膨らみ、品質が高いほど膨らみが弱いという結果ですね。
 
特に、今回実験した2つの銘柄で大きな差があるのは「密度」です。
 
当店では、販売する全てのコーヒー豆の、密度、水分率、水分活性値などを湿度、温度条件が一定のもと測定しています。
 
高品質のコーヒーほど、密度が大きく、今回もファティマとニカラグアでは、密度に大きな差が出ました。

スペシャルティコーヒーであるファティマのほうが密度が大きく、ニカラグアのほうが、密度が小さいです。
 
 
では、なぜ高品質のスペシャルティコーヒーは、密度が大きくなるのでしょうか?
 
それは、スペシャルティコーヒーの方が有機物の含有量が多いためです。
コーヒー生豆の有機物の比重は「約1.2」のため、「1.0」の水よりも有機物の方が重くなります。
 
そして、有機物の含有量が多いと、何に影響があるのか?
 
焙煎によって、有機物は化学変化が起こり、香気成分や味の成分が生成されます。
そのため、豊富に有機物が含まれているコーヒーほど、複雑な味わいを生み出します
スペシャルティコーヒーが、複雑で芳醇な味わいは、この有機物の含有量が多いためですね。
 
一方、有機物が少ないローグレードのコーヒーは、焙煎しても化学変化による香味成分などの生成が少ないため、薄っぺらい味わいになります。

【参考】
当店で有機物、自由水、結合水の含有量などを算出して、スコア化したデータ

■有機物スコア(10点満点)
ニカラグア:4
ファティマ:7

有機物スコアは、体積/cm3に対して含まれる有機物の量をスコア化したものです。

有機物の含有量が多いほど、コーヒーの味わいも複雑となり、ふくよかな味わいとなります。

逆に有機物が少ないと、薄っぺらい味わいとなります。

■かさ密度スコア(10点満点)
ニカラグア:4
ファティマ:8

かさ密度は、簡単に言うと、同じ大きさでどちらが重いか? 密度が大きいほど、同じ大きさでも重くなります。

同じ大きさの粘土のかたまりと、鉛のかたまりがあったら、鉛のほうが重いですよね。

これは、鉛のほうが密度が大きいということになります。

ふたつのスコアの違いを分かりやすく言うと、
ニカラグアのほうが、成分数が少なくてスカスカしているイメージです。
ファティマのほうが、成分数が多くて、ぎゅっとしているイメージです。


では、なぜ密度が小さい方が良く膨らむのでしょう?
 
炭酸ガスは、細胞内の「気泡」に溜まり、留まります。

密度が小さいローグレードコーヒーのほうが、有機成分が少ないため、細胞内の気泡の体積が大きくなります。そのため、たくさんの炭酸ガスを貯めておけると、推測されます。

また、焙煎度が深くなると良く膨らみますが、それも、焙煎度が深くなるほどコーヒー豆の体積が増え、密度が小さくなります。そして、細胞が大きくなり気泡の体積が増えるためです。
 
以上の事から、「膨らみ」は、品質によっても差があり、品質が低く、カップスコアも低いものほど、膨らみやすくなるということが推察されました。

逆に、品質が高いコーヒーほど、同じ焙煎度や焙煎日であっても、膨らみにくいと、考えられます。
 
鮮度が分かる大切な要因のひとつであることは間違いありませんし、よく膨らむ!ということを売りにしてきたきゃろっとですが…ちょっと複雑な心境です(笑)

でも、スッキリもしましたね!
 
今後は、同じ品質のもので、焙煎方法が異なると膨らみにも違いが出るのか?という点の実験をしていきたいと思います。

浅野大地
浅野 大地

この記事を書いた人 
珈琲きゃろっとの生産管理をしている浅野です。
コーヒー屋だから知っていることやちょっとした豆知識など、みなさまのコーヒータイムにお役立ていただけるような情報をお届けします。
日々のコーヒー実験は、妻のバリスタさーやんと一緒に。仕事場でも自宅でも、いつもコーヒーの話ばかりしているコーヒーオタク夫婦が、きゃろっと的に検証していきます。

みなさまの「なぜ?」をぜひお聞かせください!

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