毎月のように、世界中で作られている素晴らしいコーヒーをみなさんにご紹介できて、ぼくたちも本当に楽しいです。
定期便で毎月お届けしている方や、新豆を楽しむセットをお選びいただいている方は、僕たちに銘柄をお任せいただいており、お口に合わない銘柄も含まれることもあるかと思います。
でも、そのようなコーヒーも、僕たちと同じように、コーヒーの個性として楽しんでいただいていると嬉しいです。
前置きが長くなりましたが、毎年この時期になると インドネシアのマンデリンというコーヒーご紹介していますね。
マンデリンは、きゃろっとを初めてご利用の方にもご紹介している銘柄のひとつ「マンデリン・スマトラタイガー」も同じインドネシア産ですね。
また、深煎りの定番品の人気商品として、長年お選びいただいております。
このコーヒーの最大の特徴は、「アーシーさ」にあります。
アーシー(earthy)とは、土のような香りを感じられる時に使用する表現です。
このアーシーさに加え、 品質の高いマンデリンは、パイナップルやマンゴーのようなトロピカルフルーツのようなとても派手なキャラクターを持ちます。
このコーヒーを、少し深めの中深煎りに仕上げることで程よく抑えられ、苦みと相まって絶妙な一杯となります。
今回は、マンデリンがどのようにして、このような風味を持つコーヒーになるのか。
きゃろっと的にご紹介してまいりますね。
その1 スマトラ式
ひとつめが、インドネシア独自のスマトラ式と呼ばれる精製方法です。
一般的によく知られているのが、フルウォッシュド精製と呼ばれる水洗式やナチュラル精製と呼ばれる非水洗式ですね。
フルウォッシュドは、キレイに果肉を洗い流してから、乾燥工程に移るので、コーヒー豆自体が持つきれいな酸味を味わうことができます。
逆に、ナチュラル精製は、果肉を残したまま乾燥工程に移るため、果肉が持つ甘みや発酵したような独特な風味が特徴となります。
では、スマトラ式とは?
決定的に異なるのが、脱殻のタイミングです。
スマトラ式では収穫後、果肉をつけたまま水を張った巨大な発酵槽で6時間ほど保管されます。
その後、2~3日間天日乾燥し、豆の水分量が30%程度になったところで、パーチメントと呼ばれる外皮を脱殻してしてしまいます。
その脱殻したグリーンビーンズを、1日程度乾燥させ、精製工程が終了します。
産地によって多少の差はありますが、通常は10~14%程度になるまで乾燥させてから、脱殻します。
そのことから考えると、水分量が30%というのは、まだ水分がかなり含まれ、乾燥しきっていない状態で脱殻してしまうということが分かります。
この方法は、雨量が多い高温多湿のスマトラ島の気候の中、乾燥時間をより短くするために生まれました。
多くのコーヒーが精製に2週間前後かかるのに対し、スマトラ式では、3~5日程度で終えることができます。
スピーディで乾燥が終わるということは大きなメリットに感じますが、デメリットもあります。
パーチメントと呼ばれる硬い外皮には、コーヒー豆を守るための役割も果たします。
しかし、スマトラ式では、水分が含まれたまま外皮を剥くため、豆は非常にデリケートな状態になります。
傷がつきやすく、カビなどが生えてしまうリスクがあるんです。
そのため、短期間で乾燥を終えますが、丁寧に管理をしなければ、高品質なコーヒーを作り出すことはできません。
その2 インドネシア スマトラ島のテロワール
冒頭でも、ご紹介した通り、マンデリンには、マンデリンにしかない独特の「アーシーのような」味わいがあります。
これは、まさにスマトラ式の精製方法とインドネシア・スマトラ島の気候や土壌から生まれるテロワールです。
※コーヒーの味わいを生み出すための「場所」「気候」「土壌」など、取り巻く全ての自然環境のそれぞれの特徴のこと
実は、これを証明するような面白い2つの経験があります。
当店の焙煎士内倉が、スマトラ島に訪問した際、「スマトラ島で栽培したナチュラル精製コーヒー」をカッピングしました。
どんな味がしたと思います?
そのカップからは、まったく、マンデリンらしい「アーシーさ」を感じなかったそうです。
スマトラ島で栽培されても、スマトラ式で精製されなければ、マンデリンらしい味わいは生まれないということが分かります。
逆に、僕がコスタリカで経験したのは「コスタリカで栽培され、スマトラ式で精製されたコーヒー」のカッピングです。
わずかに、マンデリンらしい味わいはあったものの、口に含んだ瞬間に爆発するような、あのマンデリン独特のアーシーな味わいはありませんでした。
これは、スマトラ式で精製しても、スマトラ島で栽培されなければ、あの味わいが生まれないということですね。
この2つの経験から、やはり、このマンデリンらしい味わいには、スマトラ式という精製方法と、スマトラ島の気候や土壌の全てが織り成すことで生まれるテロワールだということがわかります。
まさに、あの複雑で派手なマンデリン特有の味わいは、スマトラ島でしか生まれない貴重な味わいなんです。
その3 コレクターの存在
内倉が、インドネシアに訪問した際、特に大切なのが「コレクター」の存在であると感じたそうです。
コレクターとは、収穫したコーヒーチェリーを生豆に精製し、輸出業者に販売する人のことです。
順に詳しく説明していきますね。
美味しいコーヒーをお届けするためには、生産者のみならず、多くの方の支えがあって初めて実現できています。
農園や精製工場の方、インポーター、それらをつなぐ物流の方。
誰が欠けても、僕らの手元にはコーヒーの生豆が届くことはなく、美味しいコーヒーを作り出すことはできません。
インドネシアのコーヒーは、世界的に見てもコーヒーチェリーから生豆になるまでの流通が独特の生産国です。
通常スペシャルティコーヒーは単一農園で生産され、生豆まで精製しますが、インドネシアでは農園当たりの収穫量が少ないため基本的に「単一農園」というのはありません。
では、生産者はどうやって収入を得ているのか。
内倉が訪問したアルールバダ地区では、生産者が「コレクター」と直接交渉することで、自分たちの収穫したチェリーを買い取ってもらいます。
買取現場では非常に活気のある中で取引が行われ、コレクターと生産者との関係はイーブンでした。
さらにコレクターは地域に複数人いるため、生産者は自分の丹精込めて育てたチェリーを一番高く買ってくれるコレクターを選ぶ権利があります。
ですから、コレクターは適正な価格でチェリーを買い取らなければなりません。
さらに、インドネシアでは、コレクターが良い品質のコーヒーを作るためにとても重要な役割を担っています。
周辺地域のたくさんの生産者と取引するので、収穫されたコーヒーのクオリティはバラバラで、どうしても品質が不安定になってしまうことがあります。
ですが、優良なコレクターの場合、高品質なコーヒーを選別してロットを作り上げることが可能です。
そのために彼らがしていることは
「①品質の良い豆は特別高く買い取り、②自分たちで、品質の良い苗を育て、それを無償で生産者に配布し、③選別、精製方法を丁寧に行い、高品質なロットを作り上げる」というような活動を行っています。
もちろん、品質が良いものか悪いものかをコレクター自身が判断するために、彼らは、カッピングの技術を身に着け、栽培から精製までの知識を学んでいるそうです。
良いコーヒーを作るために、日々生産者とコミュニケーションを取りながら共にコーヒーを作り上げているんですね。
だからこそ、素晴らしいコレクターのコーヒーは、品質も安定し、ばらつきが非常に少なくなるのです。
当店でご紹介させてもらっているような、安定した品質の素晴らしいマンデリンは、本当にごくわずかだということが、内倉の話を聞いて感じました。
真面目な生産者と、勉強熱心なコレクター、そして、インドネシア独特のテロワールが生み出すと思うと、この一杯のコーヒーの旅路に思いを馳せずにはいられません。
この記事を書いた人
珈琲きゃろっとの生産管理をしている浅野です。
コーヒー屋だから知っていることやちょっとした豆知識など、みなさまのコーヒータイムにお役立ていただけるような情報をお届けします。
日々のコーヒー実験は、妻のバリスタさーやんと一緒に。仕事場でも自宅でも、いつもコーヒーの話ばかりしているコーヒーオタク夫婦が、きゃろっと的に検証していきます。
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