珈琲きゃろっとの大石です。
前回はルヴァンでの修業期間に学んだことや、賢太郎さんのこだわりを話していただきました。
今回は、ルヴァンでの学び、甲田さんから得た学び。それらの経験を経て、北広島でお店を出してからの様子をメインにお話を中心に伺っています。
途中からは奥様(美菜さん)からもお話を聞くこともできました。是非お付き合い下さい。
来てくださる方のご期待に応えることが最優先
—オープンされて多くのファンの方がいらっしゃると思いますが、天然酵母のパンの魅力は伝わってきていますか?
どうでしょう(笑)
伝わってきている感じもありますし、まだまだ伝わりきっていない感じもあります。
皆さんに支えてもらって毎日やっていけている感じ、というのが本音ですね。だから、今、太郎山のパンを「良い」と言ってくれている方たちに、ちゃんとその期待に答えられるようにやっていくっていうことが最優先。そして、もし可能なら、より多くの人に食べてもらえたら良いなぁというくらいですね。
だから、最優先は、今太郎山のパンを美味しいと思ってくれている方の日常の中に 天然酵母のパンがあるようになれたら…という気持ちです。やっぱりサワードウブレッドというか、この酵母のパンって、 グルテンを軟化していたりとか、 消化しやすいとも言われていて、腸の働き方が違うんですね。
実は、酵母のパンって、焼かずにずっとほっとくと、グルテンがドロドロに溶けて、 形を保っていられなくなるんです。そのくらい酵母って力があって、グルテンの軟化に作用するんですね。なので、やっぱりこのパンを食べていた方が楽だと思ってくれている方が多くいらっしゃいます。
イーストで作ったパンは大抵3日ぐらいでかカビてしまいますが、酵母のパンに関しては5日間はカビないですね。環境とか状況によっては10日間ぐらいは全然大丈夫です。
—なんかすごい素人な考えですけど、 いろんな添加物がされている方がカビないんじゃないかと思ってしまいそうですけど、 逆なんですね。
そう考えている方は多いと思います。けど、守られているものの方がカビちゃうんですね。添加物によって成長速度を速めていればいるほど、結局、老化も速い。ゆっくり育つ酵母のパンの方がゆっくり老化していきます。促進している成長は、その分早く老化してしまう、ということですね。
天然酵母の力って不思議なんですよね。 あんなに200何十度で焼かれたっ後でも、その菌の働きでかび菌がよりつかなかったりとか。内心、最初は果たしてそれは良いのか悪いのかよく分からなかったんですけど、でもその後ちゃんと腐るし。変な言い方ですが、だからこそ信用できるなって思いました。ちゃんと力強さのある生きている食べ物と感じていますね。
生きていることが、酵母の面白さ
—生きている酵母、どんなふうに味わいなどをコントロールするんでしょうか?
まずは温度ですね。今25度以上でキープしていて、さっき目盛り1のところだったじゃないですか。今はこの高さまで膨らんでますよね。
25度以上で常温に出すんですけど、あれを例えば18度ぐらいにすると、 同じ高さまで成長するのにもっと時間がかかっちゃうんですよ。
そうすると、乳酸菌や酵母菌のバランスが変わってきちゃうんですよ。そのバランスによって酸味が立ちすぎてしまったり。でも酸味があるっていうことは同時にカビ菌が寄りつきにくくなるから、ペーハーが下がれば下がるほどカビないパンにはなっていくんです。でも、食べ難くて、ちょっとおいしくないですね(笑)
—なるほど。 おいしさもやっぱり重要な要素っていうことですね。
そうですね。やっぱ乳酸菌ぐらいのまろやかな酸味と、奥行きのある味、滋味深さ、噛んで小麦の味が伝わってくるようなパンにしていますね
—その味を作り出すのが、自然の力を借りながらとなると、一つハードルが高いような気がするんですけど、そこも含めて職人の技ってことになるんでしょうか?
かっこよくて言う職人の技かもしれませんが、まあ面白いだけです(笑)例えば、日によって出る酸の質っていうのが、ほんの少し違ったりするんです。だからこそ、毎日同じことやってるようでやっぱり違ってくるんですよね。酵母を出す温度やそのタイミングとか…もう本当に色々な部分で変えていきます。
それでも、実はまだまだやってみたいこともあるんです。サンフランシスコにあるタルティーンベーカリーっていう、サワードウブレッドは、ある程度育てた酵母を使用する前日の夜にちょっともぎ取るんです。もぎ取って、もう一回繋ぐっていう作業をするんですよ。 育ったものからもぎ取って、その後お水を入れて、一晩置いて。そうするとまた同じように膨らむんですけど、その膨らんだタイミングでパンにまぶすんですね。
そうした方が実際、酸味が少なく仕上がるんです。あと、パンが膨らむ勢いとか、食感も変わってくるんですよ。
—う~~ん…!本当に奥が深いんですね。
さて、こうして焼きあがるパンの魅力をお客さまに伝え、賢太郎さんのパートナーとして 太郎山を支える奥様にもお話を伺いました。
お客さまとの接点も太郎山さんの魅力
—ここからは僕だけではなく、子供たちからの質問にも奥様を中心にご夫婦で答えてくれました。一緒にいてくれたさんちゃんもありがとう!
奥様は北海道の出身ではない中、北海道でご主人が開業して、新しいとことでの挑戦は大変でしたか?
奥様(美菜さん 以下赤文字)…そうですね。やっぱり慣れてないときは不安でしたね。開業した時は子供が0歳で…。だから、お店の手伝いもほぼほぼ出来ていかなったですね。
賢太郎さん(以下青文字)…最初は子育てを優先してもらっていた感じです。でも、だんだんと手を離れてきて、今はすごく助けられています。
そうは言ってもできることはほんの一部ですよね。仕込みの時間の朝は早いし。後片付けもどうしても遅くなるから。
—お店を利用している立場からすると奥様の接客は本当に気持ちが良くて、 いつも楽しくパンを選ばせてもらっています。 先日もチーズが出てしまったので、少し割引して販売しているパンがあって。 それを正直に説明してくれて。膨らみが弱いというお話を聞いた時もありました。
そういうコミュニケーションがあるから、日々変わる酵母の働きや、伴っての出来上がりの違いも、私たちは楽しませてもらえています。これがセルフだったら、こうは思えないと思ってます。
奥様はそういうお店とお客さんを結ぶ、大事な役割を担ってるのを客の立場の僕らは実感しています。
そうなんですかね~。いやぁ、そう言って貰えたら嬉しいですが、できる範囲のことをやっていってます。
パンを焼いて、どうしても失敗してしまうときもあります。だから、それを汲んでお客さんに伝えて、 わかってもらったうえで買ってもらうのを考えてくれてるし、すごい理解者ですね。
—ご夫婦で切り盛りというのは、大変なことも多いですか?
そうですね。思っていたよりも大変ですね(笑)
お店をはじめる前は「自分でお店をやった方が自由にやれるよ」って聞いていたんですけど、実際やってみたら、なかなかそうはならないですよね(笑) 今のところはいろいろと手探りのところも多いから、 一応休みは作れるかな、みたいな感じです。
運動会とか参観日とか、勤めていた時は休みなかったけど、それができるっていうのが唯一かも自由に時間を作れると感じる時かもしれません。
—太郎山をやってて嬉しかったことは?
う~んなんだろう。嬉しいことも沢山あるし、大変なこともあって。パッと色々と出てきて、どれをお話したらよいかなぁというぐらいです。とにかく初めてのことばかりで、新しいことを経験している日々ですね。
その中で、自分たちのことになっちゃうんですが 子供と一緒に仕事ができること。職場に子供がいる環境ていうことは嬉しいですね。
あとは、もちろん、お客さんに美味しいって言って、やっぱり貰えたら嬉しいですね。
それは僕も同じ。僕はね、帰り際にいつもお美味しいパンをありがとうございますって言われちゃうと、もうその日は完璧な1日ですね(笑)そんなこと言われちゃうと、やって良かったなって思いますね。
太郎山のパンって一口食べて、 一口目ですごいおいしいみたいなパンじゃないと思うんです。だけど、 日々食べていただいて、ちょっとずつ美味しいかもみたいになっていくパンだと思ってるんですよね。 だから、そこに辿り着いている方っていうか、 そう思ってくださっている方がいるっていうのは嬉しいです。 暮らしに馴染めてるような感じがすしますね。
—馴染みのお客様が増える前、 特に開店してすぐの頃はどうだったんですか?
2022年12月24日にオープンして、 26日も営業したのかな?その時は、最初の2日間はお客さん来てくれたんですけど、もうその後からぱったり静かになって(笑)
最初が冬だったんで、1月、2月とかはもうすごい静かな日々でしたね。これやっていけるのかなみたいな感じで(笑)
でもご近所さんが少しずつ、ペースをつかんで来てくれるようになってきて。で、なんかその不安が解消されていった感じです。 それまではもう毎日は大丈夫かなみたいな気持ちでした。
ほんとにご近所の方が毎週来てくださる方もいますし 2週に1回の方も1ヶ月に1回の方もいますし
なんか定期的にほんとに来てくれる方が増えて、一安心です。
—賢太郎さんの太郎山で一番好きなパンは?
カンパーニュっていうパンが好きなんですよね。やっぱりシンプルで、そのものの味わいがしっかり楽しめるし、 飽きないですよ。
◆◆美味しい食べ方も教えてもらいました。
自家製のごま味噌ペーストとイチゴジャム、オリーブオイルを付けてカンパーニュをいただきました。シチューとかスープとかと合せるイメージだったので、美味しさに驚き!
カンパーニュって、ちょっと敷居が高いように感じるかもしれませんが、今まで食べてきてた食パンと切り替えてもらう感覚で全然大丈夫なんです。 オススメは、バターの動物性のものよりも オリーブオイルみたいな植物性のもののほうが 相性は良いかなって思ってます。
僕もルヴァンに入って最初の頃はカンパーニュにバター塗って ハチミツをかけて食べてました。その頃は子供が1歳で、ハチミツとかもなかなか高くて買えなく…。ここぞとばかりにお金を貯めてハチミツは買っていましたね。
そんなことをしながら、日々カンパーニュを食べているうちに、だんだんオリーブオイルと塩だけになっていきました。それのほうが全然食べやすいし 体が楽なことに気が付いて。
酵母のパンしかほとんど食べてないから、 時々そうではない一般的なパンを食べると、すごい反応します。それだけ、違うんだなぁというのは自分の体をもって実感しますね。
だから、酵母のパンが一人でも多くの方の暮らしに根付いて、 美味しさや健康に役立てたら、僕自身すごく嬉しいです。
—ご夫婦で話していただきありがとうございます!改めて酵母パンの魅力をしっかり感じ取ることができました。そして何より、一緒にいた2歳のさんちゃん(ご長男)が、おいしそうにカンパーニュを食べる様子が、おいしさを物語っていました。貴重なお時間をありがとうございます。
さて、次回は編集後記。今回のインタビューで学べたことなどをまとめていきます。
お付き合いよろしくお願いします。
<編集後記>酵母と共にパンを作る。太郎山さんのインタビューを終えて。「自家製酵母パン 太郎山」インタビュー④
自家製酵母パン 太郎山
北海道北広島市大曲中央3丁目2-2
TEL : 011-300-9143
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この記事を書いた人
こんにちは!珈琲きゃろっとの大石です。
毎日、お客様対応や焙煎業務など色んな事に携わっております。楽しいです^^
嬉しい言葉や、美味しい!のご感想をみては、「幸せな仕事がきてうれしいなぁ~」と実感してます。
そして、我が家のエンゲル係数異常値ですが、食道楽はやめられません(笑)
食道楽が高じて「どんな人が、どんなふうに作ってるんだろう」という興味を抑えきれず、素人ながら、家族で突撃インタビューをしています。完全に趣味です(笑)
美味しいコーヒーと同じくらい、この世の美味しいものが好き。もう、この気持ちに素直に生きています(笑)
コーヒーのこと、お客様やサービスのこと、きゃろっとのこと、食道楽のこと(笑)など色んな角度から魅力再発見するお手伝いができたら嬉しいです。
もし良かったら、コーヒーと一緒にお付き合い下さい。