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酵母と共にパンを作る。修行で培った新しい価値観「自家製酵母パン 太郎山」インタビュー②

前回のインタビューでは、賢太郎さんの生い立ちを通じて 登山での経験から価値観が変わり、パンへの道が開けてラ・テールでの修業時代に 沢山のことを学んだお話を伺いました。

中でも「ものづくり」に対する姿勢については、同じくコーヒーという「ものづくり」に携わる自分も身の引き締まる思いで聞かせてもらいました。さて、お話のステージは「ラ・テール」から、次の修行をしたお店「ルヴァン」に移ります。

ここでもまた、沢山の学びと、今の太郎山に通ずる経験があったとのこと。

それでは、どうぞお付き合い下さい。

新たな修行先で出会う、新しい価値観

—「ラ・テール」から、「ルヴァン」へ職場を変えられたんですね。
ラテールで5年働いた時点で、 ラ・テールのシェフに相談したんですよね。もっと学びたいって。 だから他のお店に行こうと思うんですっていう話をしたら、 「良いんだけど、せっかく他のお店に行行ったとしても、同じようなことをやるんだったら意味がないよね。だったらラテールにいたほうが、よっぽど良い」って言われて。
ただ、続きがあって「だけど、もし ルヴァンに行くんだったら。ルヴァンだったら、ラ・テールを辞めてでも行ったほうがいい」 って。

—それだけルヴァンさんは独自性があって、他とは違う特徴を持ったお店なんですか?
そうですね。
いわゆる、教本にあるような普通の社会にあるパン作りとは全然違います。 全部自家製で作っていて、 決して簡単ではない「ものづくり」をしているっていうことに、 ラ・テールのシェフはすごく憧れているようでした。なんなら、シェフ自身も入りたいくらいな気持ちだったと思います(笑) でも、シェフはラ・テールにとっては欠かせない人ですしね。

とは言え、ルヴァンって人を全然募集しないから、昔から入るのがとっても難しいことも有名なんですよ。わかりやすいことで言えば、ルヴァンには「スタッフ入社希望ノート」っていうのがあるんです。そのノートに名前を書いて、もし空きが出たら連絡くださいみたいな。 そのノートに記載している人だけで、名簿が出来上がるんじゃないかっていうくらい、希望者が多いお店なんですよね。

そこに、僕が入れたっていうのは本当に偶然なんです。たまたま僕がルヴァンに行った時、正に、ちょうどスタッフ募集ですって話があって。本当に偶然中の偶然で(笑)。さっきお話したように、シェフに相談に乗って貰って、じゃあルヴァンのパンを食べてみようってことで、初めてお店に行ったときですからね。偶然というよりも、只々、本当にラッキーで。だから、初めてパンを買うついでに、働いてみたいんですけどって言って(笑)

僕としても唐突なできごとでしたが、本当に凄い縁だなって思いますね。

—そのご縁が、沢山のことを学んでいくきっかけになっていくわけですね。
その通りです。特にルヴァン代表の甲田さんからは凄く影響を受けましたね。代表なんだけど、代表のような振る舞いとかは全然しない人で。僕も平気で「甲田さん、これお願いします。」とか、お願いしちゃったり(笑)

だけど、考え方にはブレない軸というか、不思議な魅力が詰まっている人なんですよね。

例えば、小麦を挽くと「小麦ふすま」っていものが出るんですよ。それを、できるだけ無駄にしないようにしていました。それでも余ってしまう分は、馬のご飯にしてもらうよう…と。

正直言って、廃棄したほうが早いんです。圧倒的に楽だし。けど「パン屋忙しくなろうとも、ふすま捨てるではなく、馬に」と持って行く。どんなに時間が無くても、そういう手間を省いて捨ててる、とはならいんですね。

馬に持って行くって、捨てることに比べると余計な手間や労力が必要になります。
それでも…だとしても、もう1回使ったり無駄にしないということを大切にしているんですね。その方が「価値がある」っていう考え方です。

僕自身も、だんだんと自然にその考えになっていきました。例えば、粉が入ってきた袋なんかも、何か他に使えるんじゃないかって方法を探して使う。例えば、クロワッサンを作る時のバターをのばすのに使ったり。そういうことの積み重ねですね。

日々違うパンが焼けるその違いを楽しんでもらう

今、僕が自分でお店をはじめて、 ルヴァンで学んだことや甲田さんの考えの全部を実現できているかって言ったら、まだまだ難しいところもあるんです、もちろん。けど、できるところからやっていっていますね。

あと、作ったパンを捨てるっていうのは、ほぼほぼ無いですね。強いて言えば、大失敗してしまった時。これ売っちゃダメでしょっていうレベルで。 それが出た時に、更に自分たちでも食べれない、ラスクにもできない。 そうなっちゃった時には、極稀に捨てることがあります。けど、それ以外は本当にないですね。

—そうなると作る際の「安定性」が重要になると思いますが、生き物である酵母。出来上がりは日によって変わってしまうのでは?
そうですね。酵母が元気な時もあるし、温度や湿度でその辺りは変わってきます。だから、本当に細かいところで調整してパン作りをしています。それでも、もちろん毎日パンの表情も違うし、出来上がった味わいも微妙に違う。それが自然だし、酵母パンの面白さのようにも感じています。

—なるほど。確かに、そのことを店頭で伝えてくれていますよね。
だから、僕はいつも少しずつ違うことを、いつも納得して買っている感覚があります。それがまた楽しかったりして。 膨らみが強いとか弱いとかってお話も楽しい。今日はそうなんだ、みたいな感覚で買わせてもらってます。

もしそれが、コミュニケーションのない状態で販売していたら…。あれ今日は失敗なのかな?ってもしかしたら感じるかもしれません。ぜんぜん感じ方が変わってきますよね。

毎日、同じ日が1日も無いように、出来上がっているパンも違うっていうことを感じながら買うのって すごく楽しくって、ワクワクする買い物ができている気がします。

そう捉えてもらえて、そんなふうに言ってもらえて…すごくうれしいです。
できるだけ、ちゃんとありのままを伝えるようにしています。妻もすごくそこは理解してくれていて、力を貸してくれています。

あと、その「ありのままをちゃんと伝える」っていう辺りも、甲田さんの影響が強いように思いますね。本当に何でも正直に言う人で。そして、ごまかすようなことをしない。例えば、無添加って言葉を使う時も、本当に無添加なのか徹底的に確認する。使用する原料の一つどれをとっても、その考えが染みわたっていましたね。

大石さんに今言ってもらったような「コミュニケーション」ということについてですが、「どのくらいの大きさにします?」って聞くこともきっかけになってるかもしれませんね。大きさを聞いてカットするのはパン屋さんでは珍しいかもしれません。

太郎山では、大きく焼いてパンを作っているので、重さで販売をしています。それが「面倒くさい」という人も多分いらっしゃるし、それが「楽しい」っていう方もいらっしゃると思います。きっと両方なんでしょうね。ただ、関わりが生まれる一歩としては面白いなと思ってます。

小麦について教えてください

—話しが変わりますが、改めて、こだわりの素材、小麦について教えてください。
ちょっとこれ見てみてください(上:写真参照)。

—石臼で挽いているんですね。
そうなんです。全部ではないんですが、一部はお店の石臼で挽いて使っています。この石臼も縁あって手に入って、本当に良かったです。この調整もとても繊細なんですよね。麦の落ちていく速度とか、あと臼がどれくらいの間隔になってるかとか、 その微妙なバランスで変わってしまうんです。挽いている時の小麦の温度も味に影響するから、熱を持たないように。一定の温度を超えちゃいけないんですよね。 それを超えると、風味が一気に変わっちゃう。

—なるほど。コーヒーで考えると、コーヒーミルと同じですね。粒度の調整はとても繊細ですし、ミルの構造によっては熱を持ってしまうものもあるんですよ。その辺りは似てるかもしれませんね。
そうですね。ちょっとした加減で変わってしまうところは、本当によく似ていますね。

—小麦の種類で挽き加減とか変えてるんですか?
小麦の種類もそうなんですが、その目的で変えています。目的というのは 作るパンの種類ですね。

あと、これは意外と知らない人が多いんじゃないかと思うんですが、同じ「全粒粉」でも結構違いがあるんですよ?太郎山では、製粉した状態で入荷する全粒粉も使用しているんですが、お店で挽いた全粒粉と見比べてもらうと、全然違うんですよ。

—本当だ!色も違うし、粗さも全然違いますね!
そうなんです。この違いを把握して、使用するパンに合わせていくんです。その度合いとかはルヴァンで学んだ部分が大きいですね。

—小麦の仕入れはどのようにしているんですか?
小麦は農家さんから直接買っているものと、 製粉されたものは全てアグリシステムさんという会社さんから仕入れています。 アグリシステムさんのテーマがすごく良くて「未来の子どもたちのために」っていう。

伊藤さんという方が社長なんですけど、 すごい丸い雰囲気の柔らかい人です。僕は太郎山を開業する前にお会いしました。 その時まだゼロ歳の息子を、伊藤さんが抱っこしてくれて。で、そのまま僕はジンギスカンご馳走になって(笑)。

初めて会った人に子どもを抱っこしてもらって、ご飯を一緒に食べて。 その後も話すにつれ、どんどん信頼が積み上がっていきました。伊藤さんご自身もパン屋さんをやったり、農場やチーズ等いろいろと取り組んでらっしゃるんですけど、どれも一貫して「未来の子供たちのために」っていうテーマがあります。

地球を再生するバイオダイナミック農法も実践していて、実際に研究してるところにも連れて行って貰いました。土壌の数値、例えば酸性とかそういうデータを見て、転作等を土の状態を見ながら決めていくんですよね。

そんなふうに、思いが伝わる方と一緒に仕事したいなっていう思いになりますよね、やっぱり。

子供に自信を持って出せる、良いパンを作りたい

—想いが伝わる。「未来の子供たちのために」というテーマに共感するということでしょうか。
やっぱりそういう風に考えていきたい想いってありますよね。
僕今44歳なんですけど、僕らの時代ってちょうどカップラーメンが出てきたり、そういう世代じゃないですか。

それはそれで、すごい技術進歩の話なんですけど、なんと言うか、そこを経験してきた人たちが大人になった今、そのシワ寄せみたいな部分も感じていて…。僕たちはこれを一生食べて生きて行く、そこまでは良いとして。

それを自分たちの次の世代に「これで生きていけるよ」って自信を持って伝えられるか。そう考えると それはちょっとできないって、思うんです。ましてや自分に子供ができたりしたら、もう無理…と。 本当に申し訳ないのですけど。

原料は何なのか、何から作られたものなのか。そういった部分をしっかり確認してからじゃないと、怖いなって思う部分が本音としてはあります。そういうことに気づくと、どんどんどんどん、やっぱり良いパンを作ろう!自信を持って子供に食べてもらいたいものを作ろう!という気持ちが湧いてくるんですよね。

—なるほど。ラ・テールやルヴァンで培った部分と繋がってくるんですね。
そこにはエネルギーが湧いてきますね。やっぱり。
だからという訳でもないんですが、パンを作っている時とか、もしかしたら一緒に切り盛りしている妻でさえ、僕のこのシビアすぎて「そこまでする!?」と感じることがあるんじゃないかと思います(笑) あと、いちいちいろんなことに「ありがとう」って言っちゃうし(笑)家でも職場でも一緒だから、 そういうところは疲れさせているかもしれません。

—いちいち、「ありがとう」って言っちゃうっていうのは?
僕がルヴァンに入って最初に思ったことが「人生でこんなにありがとうって言われる一日を過ごしたのは初めてだな」っていうことでした。大きい食卓をみんなで囲んでごはんを食べるんですけど、誰かがテーブルにある「オリーブオイル取って」って言う訳ですよ。それで、取ってもらったら「ありがとう」。

当たり前のようなんですが、ちょっと考えがズレると「オリーブオイルは自分で取ろうよ」自分も「あなた大人なんだから取れるでしょ」ってなっていく。そしたら「冷蔵庫から牛乳取ってこよう」っていうの、それぞれ勝手にやるようになるから、誰かが冷蔵庫の近くにいても、自分で取りにいく。 そしたら、冷蔵庫の前にいる人は、放っとかれてるようになる。

何でも誰かにお願いするのとも違うんですが、仮に、自分でちょっと動けばできることも、やってもらっちゃったり。 そして、それをてもらったら、ちゃんとありがとうができたり。すごく言葉にするのは難しいんですが、なんか不思議な空間なんですね。

でも、なんていうか、大人だったら当たり前みたいなことが考えられてない。 個々では無くて、みんなで生きてる。 共同体のような感じですかね。そこには「ありがとう」が無数にあったということです。

それこそ、一人一人が別の菌で、 その菌たちが一緒に、ちゃんと敵対しないで、優劣をつけないで生きてる感じですね。 そうなると、なんか自然と出てきちゃうんですよ。ありがとうという言葉が。本当に不思議な場所ですよ(笑)

例えとして菌の話をしましたが、パン作りにも直結しているんです。イーストと酵母って混ぜると、イーストの方が優勢で、 酵母は大抵負けちゃうんですよね。 やっぱり、優勢な菌の方が生き残る。 でもイーストのパンだと、できない風味があるんですよね。だから、イーストに負けないくらい力強い共同体のような酵母を育てる必要があるんです。いつもそう意識していますね。

—パン作りの技術ももちろんですが、賢太郎の考え方についてもルヴァンは大きく影響しているんですね。そして、そこで培ったものが太郎山のベースになっていることもお話から伝わってきました。

では、次回は開業されてからのお話を中心に伺っていきますね。どうぞよろしくお願いします。

▼続きの記事
酵母と共にパンを作る。生活に根付いていく太郎山のパン「自家製酵母パン 太郎山」インタビュー③




自家製酵母パン 太郎山

北海道北広島市大曲中央3丁目2-2
TEL : 011-300-9143

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大石 広土

この記事を書いた人 
こんにちは!珈琲きゃろっとの大石です。
毎日、お客様対応や焙煎業務など色んな事に携わっております。楽しいです^^
嬉しい言葉や、美味しい!のご感想をみては、「幸せな仕事がきてうれしいなぁ~」と実感してます。

そして、我が家のエンゲル係数異常値ですが、食道楽はやめられません(笑)
食道楽が高じて「どんな人が、どんなふうに作ってるんだろう」という興味を抑えきれず、素人ながら、家族で突撃インタビューをしています。完全に趣味です(笑)

美味しいコーヒーと同じくらい、この世の美味しいものが好き。もう、この気持ちに素直に生きています(笑)

コーヒーのこと、お客様やサービスのこと、きゃろっとのこと、食道楽のこと(笑)など色んな角度から魅力再発見するお手伝いができたら嬉しいです。

もし良かったら、コーヒーと一緒にお付き合い下さい。