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酵母と共にパンを作る。そのルーツと価値観の転機について。「自家製酵母パン 太郎山」インタビュー①

こんにちは!珈琲きゃろっとの大石です。

今回は北海道北広島市にある「自家製酵母パン 太郎山」さんへ行ってきました。北広島市といえば、北海道ボールパーク エスコンフィールドで有名な場所。札幌ときゃろっとのある恵庭の中間地点くらいにあります。


この北広島に2021年12月に開店したお店がこちら「太郎山」さんです。僕がこちらのお店を知ったきっかけは、きゃろっと内の冬のイベント「シュトレンの会」でした。

「シュトレンの会」はスタッフ皆でオススメのお店を出し合って、いろんなお店のシュトレンを食べ比べするリッチな会でなんです。シュトレンの食べ比べって、なんかリッチな感じしませんか?


その時に、スタッフの一人が紹介してくれたのが、こちら太郎山さんでした。食べたことの無い、純朴で素材の風味豊かなシュトレン。一体どんなお店なんだろう…。

お店の場所を聞いて伺ったのをきっかけに どんどん天然酵母のパンの魅力や素敵なお店の雰囲気に魅了されていきました。そして、その好奇心が、今回のインタビューに繋がっています。

今回も安定の家族インタビュー(僕と子供2人)という手弁当感満載の内容ですが、どうかお付き合い下さい。

この日、太郎山さんは店休日。

ただ、特注で飲食店さんからフォカッチャのオーダーが入り、お店は休みですがパンは焼くのでいかがですか?とご連絡をいただきました。人気のカレー屋さんからの特注とのこと。そんな大事なお仕事の現場にお邪魔することにしました。


余談ですが、「太郎山」というお店の名前は長野で修業していたお店から見えた山の名前。また、店主ご自身が「賢太郎」というお名前で「太郎」をとったそうです。

まず、その賢太郎さんにお話を伺っていきます。

賢太郎さん今日はよろしくお願いします!


—賢太郎さん、今日はどうぞよろしくお願いします。
はい。よろしくお願いします。

—唐突でスミマセン…!太郎山さんのお店の作りはパン屋さんとしては独特な構造に思っています。入ってすぐ長いテーブルがあって、沢山のパンが並んでいて。いつも笑顔の奥様が希望のパンを取ってくれて。その奥で賢太郎さんがパンを焼いている様子が、すごく良く見えるようになっていますよね。

そうですね。
これは、作業を見せるということでこういう形にしたというよりは、自分と妻の二人でこのお店をやるってきめていたので、作業しながらでもお店の様子が見えるようにしたかった、というのが大きいですね。

今お店が混んでるのか、そういう状況がわかるようにしたいと内装業者さんに伝えてこういう形になっています。

—ご夫婦お二人でやっていくというのを想定したお店作りなんですね。
そもそも人を雇う勉強とかしたことが無いので(笑)わからないので、最初からその頭が無い、という感じですね。

だから今後のこういうお店にしたいっていうのも、できれば、家族との時間のことも大事に考えています。どうしても朝早くからの仕事になりますし、家族との時間が取りにくいので(笑)

自宅とお店を一緒にできたら良いな、とか。そういうことは思いますね。

—毎日、朝何時位から作業されているんですか?
僕はだいたい朝4時位には来てますね。通常のパンであれば、だいたい4、5時間発酵から焼くまででかかります。 でも、天然酵母の場合、その倍時間がかかるんですよね。だいたい8時間から10時間かかります。結局、最低でも1種類の生地に対して約8時間 面倒を見るかたちになるんですね。

あと、生地にするその前の段階で、その生地に使う酵母を育てる時間が8時間かかるんです。

だからひとつのパンに対して16時間かかるんですよね。 最低でも。さらに、その後に成形して焼いてってこともあるから、結局20時間くらいかかるんですよ。

—20時間…。その時間の長さだけでも、賢太郎さんの強いこだわりが垣間見えますね。

生い立ちと、パンとの出会い

—話を少し変えますが、賢太郎さんのことについてお伺いしていきますね。まず、 簡単に生い立ちを教えてください。
小学校が札幌で、中学が小樽・旭川。高校も旭川ですね。
大学で東京へ行って、卒業後はキャンプ場で働いた後 31歳の時、東京のパン店「ブーランジェリー ラ・テール」に就職しました。そこからパンの道に入っていったわけですね。その後、 「ルヴァン」でも修行を重ねて、2021年12月に「太郎山」をオープンしました。

—元々パン屋さんをやりたいという想いがあったのでしょうか?
いや、元々は音楽が好きだったんです。音楽が好きで、音楽をやりたかったんですよね。ライブハウスで働いたりとか、大学卒業後はフラフラしていました(笑)

音楽が好きでやりたくて。 でも、音楽じゃ食べていけない。それで、30歳手前くらいで 人生を考えなきゃいけない… と思いはじめてましたね。

そんなことを思っているときに、山登りに誘われて。本当に偶然ですね(笑)そこで、自然に触れることの楽しさや 静けに感化されたんですね。それまで自然に触れることもあったと思うんですけど、本当にそのときがきっかけで、見え方が変わったような感じです。

本当に、山登ったらすごい楽しくて。だから、自然の中に身を置いて仕事ができるものを探して、見つけたのがキャンプ場だったんですよね。

そんな気持ちでキャンプ場に就職したんですけど、次の年に東日本大震災が起きて。キャンプ場は結局電気を使いますし、キャンプ場まで来る道の信号もついたり消えたりで…。 内部的なことを言うと、僕らのお給料も怪しいというふうになってしまって…。

その時に、子供たちと一緒に ダッチオーブンでパンを焼くっていう アウトドアのワークショップがあって。その時に「パンって美味しいし楽しそうだな」って気持ちが動いていきました。

けど、その時は本当にまだ気持ちは軽いんですよね(笑)

パン屋さんへの道

—音楽⇒山登り⇒キャンプ⇒パンという流れで、ここでパン屋への道が開かれたんですね。
はい。
そこから色々なパン屋さんに働けるところは無いか連絡をしました。 けど、なかなか現実は厳しくて…。30歳を超えてからはじめられるほど パンは甘く無いっていう話をされたり。

色々なところに電話をしたんですけど、本当にお前みたいなやつには絶対に入れない、と怒られたりもしました。絶対に体力的にもやっていけないからって。厳しい思い出です(笑)

そうこうしている中で、ラ・テールに出会って。社長がやってみる?っていう感じで前向きに聞き入れてもらえました。入ってから知ったのですが、ラテールのコンセプトに「自然に生きる」ということがあるんですね。

そういう部分に、僕は外れていないということもあって 働けることになりました。

—賢太郎さんは子供の頃から「自然に生きる」という感じでしたか?
いえいえ。子供の頃はつまんないと感じていたと思います。花を見に行こう、というよりも探検したい、って言うような感じで。

けど、何かそういう自然の良さみたいなものを感じられるようになったのが、あの登山に行ったタイミングだったんだと思います。20代後半までに、色々な人やモノに触れていくうちに、そういうことに気が付けるようになったのかな。

だから、山に行ったときに見た朝日だったり夕日だったりとか、そういうものが綺麗だなって感覚が少年時代と違っていたんだと思いますね。

少年時代は、というよりももっと大人になってからも、若者らしい強がりとか、自分をよく見せようとするような、そんな人間だったように思います。

けど、若いころはそれで良かったかなって今は思えています。それを経て、今経験したからわかることも沢山ありますから。

山での見え方の変化

—色々なことを経験されて、新しい自分を発見しながら、少しずつ変わっていった感じでしょうか。
そうですね。けどやっぱり山登りのタイミングで色々な価値観が一気に変わったような気がします。例えば、なんだろうな…山登ってみんなで食べるご飯のおいしさに 気付かされたり。

それまでは、お腹がいっぱいになれば良いと思ってました。牛乳1リットル飲んでおしまいって。そんなことをやってましたからね。 おかしな考え方ですよね(笑)

それが今では酵母や原料にこだわって、こだわった食べ物を作る側になってて。山を通じて価値観がここまで変わっていくっていうのはすごいことだし、面白いことですよね。

—本当に面白いですね。価値観の転換から今の太郎山さんに繋がっていますね。
では話を戻しますが、ラ・テールさんでの修業時代のお話を聞かせていただけますか?
いやぁ、最初は大変でしたね…(笑)
ラ・テールの社長の考え方ができるだけ無添加で体に良いもの、というのがあって。酵母のパンもあったんですよ。

そこで、僕が入っていくわけですけど、その時の僕は考えも甘くて、言い方悪いですが遊び半分で入ってきた感じになっていたと思います。

ラ・テールにはフランス人の職人もいて、とくに彼は厳しかったですね。彼から見たら、僕は朝は6時ギリギリに来るし、ただ言われたことをやって帰る。年も30歳で、どうしてそんなふうに働くんだろう?って映っていたと思います。

けど、そんなふうに厳しくも教えてくれるおかげで、僕の意識も変わっていって。

やっぱり何より、働いているみんなが「良いパンを作ろう」としているんですよね。そこにいるすべての人が。良いパンを作るっていう意識で、それぞれがやっているんです。それを見ていたら、自分も変わっていくのを感じました。

だんだん気付く、パンの面白さ

入ってからの3年間はサンドイッチを作っていたんですね。 自分でパンを焼くという機会は全然貰えない状況です。

けど、3年間サンドイッチやってる間に、どの人が焼くパンはどんなふうに焼き上がってるのかっていう違いみたいなものが わかってくるんですよね。 同じ素材で、同じ機械で、同じ時間に同じように作業してるのに、 人が変わるとパンが変わるっていう。そういうことを観察していました。

—人によって同じ素材、環境、焼き方でも違うものですか?
本当に、全然違うんですよ。 全然違う。
それに気がつくようにしてくれたり、教えてくれたりする人たちがやっぱりいて。 その人たちに育ててもらってるうちに、だんだんパンの面白さに気付いていくんですね。

—パンの面白さ…!気になります。例えば、どんな面白さを感じるんですか?
そうですね。
まず、みんなが良いパンを作ろう!という同じ気持ちがある。その上で、その中で あの人のパンは本当にいいよねっていうことがあるんですよ。不思議なんですが、なんでだろうねっていうことがあるんですね。それって、すごく不思議で面白くて。

膨らみが違ったり、食感も違ったり。 あとは、なんていうかシンプルなパケットとか、そういうものに違いが結構現れるんです。

今になって思えば、どの人もやってることは一緒なんですが、やっぱり見極めが違うんですよね。 発酵が完了したなって感じるタイミング、あとは、その後の水分を含ませるタイミング。その時の気温や湿度に応じて量だったりも調整できたりとか。

だからこそ、僕が適当な仕事をしたら凄い怒られましたね。さっき話したフランス人には、でっかい30センチ以上ある包丁を持って追いかけられたこともありました(笑)

でも、やっぱりそういう真剣な人たちの 作るものの良さってやっぱありますね。 今でもそのスタンスというか、 ものづくりに対する真剣なスタンスみたいなところは そこで学んがことを基礎としてやっていますね。

お客様へに対しても真剣に取り組むという気持ちは そこで養ったんじゃないかなと思っています。

—本気で取り組む姿に、どんどん影響を受けていったんですね。

太郎山さんのお店に来るたびに感じる「もの作りへの誠実な姿勢」はこの時から養われたんだと実感しました。

次回のインタビューでは、そのラ・テールから次の修行のお店へ移り学んでいった内容について詳しくお伺いしていきます。

▼続きの記事
酵母と共にパンを作る。修行で培った新しい価値観「自家製酵母パン 太郎山」インタビュー②


自家製酵母パン 太郎山

北海道北広島市大曲中央3丁目2-2
TEL : 011-300-9143

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大石 広土

この記事を書いた人 
こんにちは!珈琲きゃろっとの大石です。
毎日、お客様対応や焙煎業務など色んな事に携わっております。楽しいです^^
嬉しい言葉や、美味しい!のご感想をみては、「幸せな仕事がきてうれしいなぁ~」と実感してます。

そして、我が家のエンゲル係数異常値ですが、食道楽はやめられません(笑)
食道楽が高じて「どんな人が、どんなふうに作ってるんだろう」という興味を抑えきれず、素人ながら、家族で突撃インタビューをしています。完全に趣味です(笑)

美味しいコーヒーと同じくらい、この世の美味しいものが好き。もう、この気持ちに素直に生きています(笑)

コーヒーのこと、お客様やサービスのこと、きゃろっとのこと、食道楽のこと(笑)など色んな角度から魅力再発見するお手伝いができたら嬉しいです。

もし良かったら、コーヒーと一緒にお付き合い下さい。