こんにちは。珈琲きゃろっとの大石です。
引き続き、クロワッサン専門店深井商店さんにお話を伺っています。
前回は、深井商店さんとお客様の繋がりについて、具体的なお話を伺うことができました。採れたての大根を持ってきてくれたり、引っ越しの際にお手紙を持って挨拶に来てくれたり。
一般的なお店とお客様の関係では、なかなか見られない光景をお話で教えてくれました。
僕は、お話を伺いながらきゃろっととお客様の関係についても想いを馳せていました。実はきゃろっとへも、お客様がお野菜を届けてくれたり、旅行のお土産を持ってきてくれたり。工房にもお客様が作った、自家製「お漬物」を送ってくれたり。
深井商店さんのお話から、きゃろっととの共通点を感じて、とても嬉しく心温まる思いでおります。
さて今回は、お客さまとの関係性や、一緒にお店を切り盛りする奥様との信頼について、より深くお話を聞いています。ぜひお付き合い下さい。
夫婦で作り上げる 深井商店の強み
—一般的な「お客さま」という感覚を超越してるような感じですね。
自分で言うのも手前味噌なんですがこれが深井商店の強みなんだと思ってます。
個人的な好みなんですけど、僕どうしてもセルフレジが苦手で。機械が苦手っていうこともあるんですが(笑) 僕自身がお店をやるにあたって、そういう形はやりたく無いなって思ってて。
けど、そうは思っても、どうしてもパン屋って回転を良くすることを求めるじゃないですか。 セルフレジって効率的な面で言えば素晴らしいですよね。けど、僕はやりたくない(笑)じゃあどうするかって考えたら、小さなことなんですけど、値段を十円単位に設定して計算しやすくしたり、お客さんにもわかりやすくしたり。そういうことで努力してます。
セルフレジを否定しているわけじゃなくて。コンビニとかスーパーとか、便利で回転が良いっていうことはいっぱいあると思います。けど、それを深井商店ではやる必要ないなって。僕自身の感想なんですけど、やっぱり店員さんに「○○円のお返しです」って、笑顔で手渡しして貰えたら、あったかくて嬉しいんですよね。何か温もりがあって。
だから深井商店では、そういうあったかさを大事にしてます。よく本屋さんとかで「これから始めるパン屋さん」とか「カフェの経営」とか、そういった本があると思うんですけど、そこに書いてることの逆のことを結構やってますね(笑)
回転の良さとか。効率重視とか。僕がやりたいのはそういうことじゃなくて。 天邪鬼な僕の性格もあるんですけどね(笑) 経営がチラつくっていうんですかね…そういう視点も、もちろん大事なことではありますよね。けど、来てくれたお客さんを数字でしか見ないような、捌くことばっかり考えるのは、ちょっと僕のやりたい店ではないんですよね。
これって完全にキレイごとなんですけど(笑)けど自分で経営するって、そういう究極のエゴを貫ける場だとも思うんですよね。
人を雇ったりしたら、また変わるとは思います。けど、僕らは従業員を雇うつもりはないんですよね。だから僕と妻とで合せて10なんです。それ以上でも、それ以上になろうとも思わない。
だから、その10を提供できるのは僕と妻しかいないんですよね。
僕が「あ、今ちょっとできてないな」という時は、その気持ちを汲んで妻がその分補ってくれてます。逆に、妻が忙しくてできない時は、僕がその気持ちを汲んでその分やっていく。
そういうふうに、二人でやっていっていますね。
クロワッサン専門店=深井商店ということではない
—最近クロワッサン専門店が新しくできてますよね。
そうなんですよね。「マネされてるんじゃない?」とか色んな人に言われるんですよね(笑)
けど、もしそうだったら。もしマネてくれているんだったら、深井商店が成功してるっていうふうに思われてて 成功のパターンとして見られてるんだっていうことですよね。それって嬉しいですよね!
けど、やっぱりマネしてるかどうかなんてわかんないですしね。
ただ、もしそう思われてるとしたら。「深井商店みたいにやったら、成功するんだ」って思われてるとしたら ひとつの目標みたいになれてて、やっぱり嬉しいですよね。
—それでも、深井商店さんのオリジナリティは損なわれないということですね。
どうなんでしょうね(笑)
—深井商店さんは行列ができることが多く、レジのお客様の捌きは凄く早いですよね。お待たせしない優しさも凄く感じます。
どうしても、そこにはスピードが求められると思うんですよね。それと相反するように、お客さまとの密度、関係性が構築されていく。自分で想像すると、その両立ってもの凄く難しいことのように思います。やっぱり、あれは妻じゃないとできないことですよね。それこそ、教えてできることじゃないから。
妻はスピードのことも考えながら、お客さんとの関係性についても考えていてます。それってなんでだろうって思ったら、そういうふうに、「急いで!」尚且つ、「お客さんにも愛想よく!」っていうのを「やんなきゃ!」って強いてるんじゃなくて、彼女自身がそういうふうにしたと望んでる。だから、結局自然な状態なんだろうって思って。本心からやってるんでしょうね。
そうじゃないと、作業になってしまいますよね。極端な言い方になりますが、そうなったら、もうやんない方が良いんですよね。そうなるくらいだったら、いくらでも時間をかけていいから 良い接客、良いもの、その「良い」と思う方を選択していく。 そういうことは、いつも二人とも考えてます。
夫婦、仕事も家も一緒だから24時間一緒。ほぼ仕事の話をしてますね。 ご飯食べに行っても、今のサービスは良かったね、とか。今のしぐさ、こうだったね、とか。気付かなかった!とかね。
そういう話でいっぱいで、ケンカする暇もないです(笑)
後は、僕がダメ出しされるかですね(笑)
妻は、お客さんには「僕の気持ちを汲み取って」接客をして、 僕には「お客さんの気持ちを汲み取って」話してくれます。
—どんなことをダメだしされるんですか?
僕の中で渾身の新商品を考えて考えて作って、最大にして最後の壁になってくれるのが妻なんですよね。
だから、店に新商品は簡単には並ばないんです。これは、僕にとって「あるある」なんですけど、作ってる側って見えにくくなってしまう部分があるんですよね。 一生懸命作り込んでるから、思い入れも出てくるし、謎の自信も生まれて(笑)
だから、そういう部分が全く無い、客観的な意見を妻がズバッと言ってくれることは、凄く大切です。だって、僕がどれだけ時間をかけてたり、渾身の出来だって思っても、お客さんには関係ないですもんね(笑)もし僕のことを気遣って、遠慮したり言わないでいたら、お店は「渾身の」クロワッサンだらけで、何が何だかわからなくなると思います(笑)
そういう作り手の視点じゃなくて、お客さんが何を求めているのかっていう視点を妻は持ってくれてて。お客さんが、お店の中やレジに来た時の様子を見て、それを感じ取ってくれてるんですね。だから、本当に必要かどうかをお客さんの目線で伝えてくれるんです。
—お客さんには「深井さんの気持ちを汲み取って」接客をして、 深井さんには「お客さんの気持ちを汲み取って」話してくれる、ということですね。
そうです。
難しいことですよね。けどそれに凄く応えてくれる。だから、その壁はありがたい(笑)つい先週もあったんです。僕としては深井商店はじまって以来の会心の出来だったんですが…。幻になってしまいましたね(笑)
例えばですが、僕が新商品で渾身のカスタードクリームのクロワッサンを作ったとしますよね。
この場合、当然ですけど、僕はお店に出したくて作るんですよね。頭の中にイメージが沸いて、あ!良いぞ!って。生まれてくる感じなんです。
対して、それを聞いた妻は、「でもね、今もうカスタードのクロワッサンがあるからね。お客さん迷っちゃうから、どっちかで良いね」って言うんですよね。
これって本当大事ですよね。
新しい商品を作るのも大事だけど、お客さまが買いやすい、迷わないっていうのも買いやすさだし、安心感になりますよね。
そういう観点で意見を言ってくれるから、僕は渾身の出来でも、幻になって構わないって思えますね。
—それは、信頼があるからできることですよね。
そうですね。
それと、僕自身に自信がないから、ということもあると思います。 だから、そういう意見を積極的に聞きたいって感じますよね。
商品名が漢字1文字である理由とは?
—商品名が漢字なのはどうしてですか? この辺りも奥様と相談して決めているんでしょうか?
これはですね、もっと単純な理由なんです(笑)
僕の天邪鬼なところなんですが、パン屋さんの好きじゃない所と言いますか…横文字を使いたがるところがありますよね。僕はパン屋で働いてきたからわかるんですけど、お客さんはきっと意味が分かんないだろうなぁ~って(笑)もちろん、これは僕の好みの問題ですけどね。
それの最たるものが、お店の名前なんです。 パン屋さんって、お店の名前も横文字が多い(笑)
だから、シンプルにしたいと思ってました。
僕は深井だから。 深井がものを売る店なんだから「深井商店」だって(笑)
そういう訳で、店の名前は一番最初に決めてました。 それで、次に商品名なんですけど、クロワッサンって「月」の形をしてるんですよ。三日月みたいな形です。
だからプレーンは「月」
そこからは、もう簡単に。一文字の漢字で表せるようにって考えて付けていった感じですね。
あと、ちょっと面白いのは一見関係のない漢字の商品も混ざってるんです。 実はそれ、友達の子供の名前だったりして(笑)一つひとつの商品に、そんな思い入れを持ったりして毎日作り続けてます。
深井さんの脳内メーカーは、どんな構成要素になっているのでしょうか?
—「友達」という言葉が出ましたね。そういえば、以前、深井さんの脳内メーカーについて伺ったら、最も大きな比率で「友達」があると仰ってましたね。
大きな比率というよりも、全部が「友達」ですね。その中に家族、そしてクロワッサンがある感じです。
クロワッサンは大好きなんですが、仕事としては考えていないんですよ。 仕事と捉えてしまうと、明日には飽きてしまうから。だけど、僕自身がクロワッサンが好きって思いでやってるから 「こうしたら美味しくなるんじゃないか」っていうのも 仕事としてとらえて無い。
甘いものも好きなんですけど、やっぱり面白いんです。例えば、同じ材料が2つ…「クリーム」と「生地」があったとしますよね。それで、クリームが生地の中に入ってるのか、外側にかかってるのか、どの位どのタイミングで、どんなふうに使うか。 こんなふうに、たくさんの組み合わせを仕事としてやっていたら大変だけど、そうじゃなくて、楽しくて色々と試してくような感じですよね。
それは、店頭での接客も同じ。
相手の話を聞くときは、こうした方が話やすいよね。 他所に行った時も、「凄く話しやすかったのはなんでだろう」っていうことを 夫婦で話し合ったりして。 「やっぱりそう思ったよね」って。 それも仕事として、という感じでは考えていないんですよね。
より気持ちよい対応。より美味しいクロワッサン作り。それは、無意識的にずっと考えてますね。
仕事として、狙って「また来てもらうために」やってるんじゃなくて、目の前の人に、気持ちよく過ごしてもらうことで、結果、次も来てもらえると思うんですよね。 だから「今」どうできるのかっていうことを考えてます。
更に考えていくと、じゃあ気持ち良いって何だろう?って、なりますよね。
接客って面白いもんだし、人それぞれ個性が違うから正解がない感覚もあります。けど、単純に考えれば人と人の関わりですよね。 その部分は、さっきの「友達」っていう部分に繋がってくると思ってて。ベースになるのは「友達」に気持ち良く対応するような感じです。 袋の渡し方一つとっても、 どの高さが良いのか。気持ちよく受け取ってもらえるか。
不自然なほど丁寧な対応をするのも変だし、 馴れ馴れしいのもそれはお店としておかしいから、バランスはとります。 けど根本の部分は「友達」っていう部分で考えますね。
だからマニュアルっぽくなることもないし「人」として、接するようにしてます。その方が温かみがるし、僕は気持ちが良いなって思うんですよね。だって、マニュアルっぽいままだと「友達」になれないですしね(笑)
それは「深井商店」としてのスタンスになるし、それが、そのまま「深井商店」のオリジナリティだと思うんです。
いやぁ、今回も深井さんならではお話を聞くことができました。
聞けば聞くほど「深井商店」の中にある、深井さんの哲学の奥深さと面白さに興味津々です。
更に奥様との信頼関係。忌憚なくお互いがコミュニケーションできるからこそ、お客さまにとってベストな「深井商店」が出来上がるんですね。
また、お客さまとの関係性のベースに「友達」を軸に考えているということもユニークに感じました。お客様は神様。一般的にはそう考えるところですが、フラットに「自分が最も自然体でおもてなしできる形」が「友達」だったのではないかと思います。
さて、そんな深井さんのお話はまだ聞かせて貰っています。
続きとなる「それで「深井商店」と言えるのか。僕らのできることを、僕たちなりに続けていく。クロワッサン専門店 深井商店 インタビュー④」も是非ご期待ください。
この記事を書いた人
こんにちは!珈琲きゃろっとの大石です。
毎日、お客様対応や焙煎業務など色んな事に携わっております。楽しいです^^
嬉しい言葉や、美味しい!のご感想をみては、「幸せな仕事がきてうれしいなぁ~」と実感してます。
そして、我が家のエンゲル係数異常値ですが、食道楽はやめられません(笑)
食道楽が高じて「どんな人が、どんなふうに作ってるんだろう」という興味を抑えきれず、素人ながら、家族で突撃インタビューをしています。完全に趣味です(笑)
美味しいコーヒーと同じくらい、この世の美味しいものが好き。もう、この気持ちに素直に生きています(笑)
コーヒーのこと、お客様やサービスのこと、きゃろっとのこと、食道楽のこと(笑)など色んな角度から魅力再発見するお手伝いができたら嬉しいです。
もし良かったら、コーヒーと一緒にお付き合い下さい。