こんにちは、バリスタさぁやんです。
コーヒーの楽しみと言えば、一番多くあがるのが香りではないでしょうか。
「コーヒーは苦手だけど、香りは大好きなんだよね。」という声も聞くくらい、コーヒーの香りは、人々を魅了します。
実際に、コーヒーの香りには、脳に与えるリラックス効果や活性効果があることが証明されています。
さて、そんなコーヒーの香り。
お客様から香りに関することを聞かれる場合もあります。
- いつも同じ銘柄を飲んでいるお客様が「匂いが以前より感じない」
- 自分は「グアテマラ」の方が香りが強いと感じるのに、夫は「マンデリン」の方が香りが強いというんです。なんで?
という、香りにまつわるご質問をいただくことがあります。
今日は、コーヒーと嗅覚の仕組みについて、お話していきますね。
「コーヒーの香りがしなくなった?」それは、嗅覚が疲れちゃう、繊細な嗅覚さんのせい。
匂いのことで、こんな経験はありませんか?
- 車やトイレの芳香剤やフレグランスコーナーで、匂いを嗅いでいたら、途中から何がなんだか分からなくなってしまう
- 柔軟剤を変えたら良い匂い!と思ったのに、使っているうちに、匂いが全く感じられなくなった
これが、まさに嗅覚疲労です。
同じ匂いを嗅いでいると、嗅覚が疲れ、感度が低下してしまい、匂いを感じなくなってしまう現象です。
とくに匂いが強ければ強いほど、より強い疲労反応が起きるとも言われています。
また、面白いことに嗅覚疲労は、他の種類の香りには感度が低下しないというのが特徴です。
アロマオイルの専門店で、稀にコーヒーの粉が置いてあるお店もあります。
アロマを嗅いで匂いがわからなくなったときに、コーヒーという違う種類の物を嗅ぎ、リフレッシュさせ、嗅覚を回復させるためなんです。
店舗にいると「良い匂い~」とお客様が入店してこられることがよくあります。
実は、店舗に毎日立っている私たちは、日常的に「良い匂い~」と店舗内で思うことはほとんどありません。
豆を挽いているときや、抽出しているときに良い匂い~と感じるときはありますが、空間に居て感じることはないのです。
同じように、いつも同じ銘柄を飲んでいるお客様が「匂いが以前より感じない」とおっしゃる方がいます。
さて、コーヒーショップで働く私が空間の香りが分からなくなることも、同じ銘柄のコーヒーを飲み続ているお客様が香りが感じられなくなるのも、この嗅覚の疲労によるものです。
私の場合は、休業明けた出張明けで久しぶりに店舗へ足を運ぶと、良い匂い~と感じることがあります。
また、同じコーヒーを飲み続けている方は、ぜひ、一度違うコーヒーを飲んでいただくことをおススメします。
一定期間、別のコーヒーを飲むだけで、再び香りが楽しめることもあります!
体調のバロメーターでもある嗅覚!注意が必要な場合も?
実は、急に特定の香りを感じにくくなる、というのは、身体のSOSの場合もあるかもしれません。
最近では、コロナの影響で嗅覚、味覚の異常をきたすということが報告されていますが、それだけではありません。
ストレスや病気、通常の風邪、加齢でも原因でも嗅覚に異常をきたす場合もあります。
女性の場合はバイオリズムやホルモンバランスでも、変化を伴うこともあります。
例えば、風邪の場合は、他の症状(頭痛や発熱など)が出る前に、嗅覚や味覚異常が出る場合もあります。
もともと、嗅覚と味覚は深く関連しているため、嗅覚に異常が出た場合、味覚にも影響がでます。
小さいころ、鼻をつまんで苦手な食べ物を食べたのも、匂いをシャットアウトすることで、苦手な味もある程度軽減させていたんですね。
「あれ?いつもより香りが薄く感じる。コーヒーが苦く感じる。」
その数時間後~数日以内に、風邪の症状が出てくるということは、決して稀ではあれません。
また、やっかいなことに、咳や鼻水などの風邪症状が落ち着いたのに、嗅覚は戻らないということもあるんです。
程度に差はありますが、一般的には風邪症状が落ち着いてから1~3週間ほどは正常の嗅覚にはならないそうです。
「調子を崩したのはずいぶん前だなぁ。」というときでも、まだ、嗅覚や味覚に影響を与えていることもあるんですね。
ちょっと、話が逸れてしまうのですが、知り合いの方で扁桃腺の摘出手術をした後、「1年間、全く味覚が機能しなくなった」という方もいました。
舌の手術をした訳ではないのに、味覚に障害が起きてしまうということもあるんですね。
なので、いつもより、コーヒーの香りがしない?味が違う?そんな時は、もしかしたら身体のSOSかもしれません。
ちょっとだけ、生活を振り返ってみても良いかもしれません。
焙煎やロットによる香りのブレはないの?
農産物である異常、ロットの差がゼロとは言い切れません。
例えば、ルワンダで生産されるコーヒーには「ポテト」と呼ばれる、ジャガイモの芽のような香りを強烈に放つ豆が混じることがあります。
60kg中に1粒か2粒程度のものですが、この1粒が抽出したコーヒーに入ってしまうだけで、かなりジャガイモ味のコーヒーとなります。
逆に、とても素晴らしいフレーバーのコーヒーが一粒入り、そのカップが素晴らしいアロマに包まれることもあるかもしれません。
また、年度によって差が出る農園もあります。
そのため、収穫年度が切り替わったタイミングで、アロマやフレーバーの表情が変わることはあります。
ただ、基本的には、麻袋ごとの品質差がでないよう、同じ時期に収穫されたコーヒーは産地で混ぜられて麻袋に詰めていきます。
同じ農園でも収穫された場所や区画で味わいが若干異なるかもしれませんが、その差が出ないようにしているんですね。
また、焙煎はお店によって異なりますが、きゃろっとでいうと、全てコンピューターによって制御されているため、かなり誤差が出にくくなっています。
その日の気温、室温、湿度などに合わせ、同じ条件で焙煎できるよう熱量を測定し、シリンダーの回転数や排気量を調整しています。
もちろん、ゼロとは言い切れませんし、今までもロットによって香りが弱かったケースもあります。
人間の鼻は、か弱いと言いつつも、機械で測定できないものを嗅ぎ分けるという鋭さも合わせ持つため、いつもと違うということが分かることもあるんです。
ただ、自分自身の体で考えてみても、人間の嗅覚のブレよりは、ずっと生豆も焙煎も安定しています。
そりゃあそうですよね、その日の睡眠時間や体調、また抽出の条件まで加えると、毎日違った条件で自分は過ごしていることが分かります。
と、ちょっと話が逸れてしまったので、次にいきましょう!
どの香りが強い?どの香りが良い匂い?
香りの感じ方は、実は、かなり個人差があります。
冒頭で書いたように「奥様はグアテマラの香りが強く感じ、旦那様はマンデリンの香りが強く感じる」というシーンって実はよくあります。
店舗で接客していると、ご夫婦の意見が食い違い、ちょっと険悪ムードになったりすることも(笑)
これは、何が起きているのでしょう?
ひとつは、先天的なもので遺伝的な要因。
特定の嗅覚受容体遺伝子が機能せず、特定の匂いが全く感じられないということがあります。
「特異的無嗅覚症」とも呼ばれるそうで、珍しいことではないようです。
例えば、汗のにおいのある種の成分が全く感じられないと人が10人に1人はいるそうです。
ですが、日常でほとんど不便になることもないため、本人は自覚症状がないことがほとんど。
汗の匂いで10人に1人いるということは、コーヒーを含む、他の物質や食品に関しても、同じように匂いを感じることができない人がいてもおかしくありませんね。
実際に、店舗で香りのサンプルでご案内すると、非常に特徴的なナチュラル精製のコーヒーの香りも「全く感じない」という方もいらっしゃいます。
そして、もうひとつは環境由来のものです。
例えば、日本人の多くが好む納豆、これは外国の方が嗅いだ時に「腐った匂い」と判断し、初めてだと口にできない人がほとんどです。
これは、小さなころから納豆を食べてきたかどうかの違いになりますね。
また、コーヒー教室をすると、煙草を日常的に吸う人は「パンチのあるコーヒー」を好む傾向にあります。
コーヒーが苦手な人が敏感に感じる「スモーキーな香りのあるようなコーヒー」も、愛煙家さんには、割と受け入れられます。
日常的に、タバコの香りに触れていると、どん!と強い香りじゃないと満足がいかなくなる方が多いんですね。
嗅覚に生活環境がどう影響するかが、よくわかるケースです。
先ほどの、嗅覚が順応する例とも重なるところがありますね。
ちなみに、焙煎士になる、バリスタになるには、よく「タバコはNG」と言われます。
これは、タバコによってコーヒーの味わいの感じ方が変わり、焙煎時に煙が豆についたかどうかの味の判断が鈍ってしまうからなんですね。
先天的に、個人差はあるものの、この環境由来のものは、「訓練」によって、鍛えられるのも特徴の一つです。
「食育」という言葉があるように、色々な味を意識的に覚えることにより、各段に嗅覚、味覚の幅が広がります。
これは、子どもの頃からだとより効果的ですが、何歳になっても成長すると言われています。
コーヒーも最初はどれも「コーヒー」としか感じない香りを、意識的に挽いたときに香りを嗅ぎ比べるようにすると、明らかに違いが分かるようになってきます。
ということで、香りの強い弱い、好き嫌いの感じ方は、かなり個人差があります。
そのため、自分が思った「こっちの方が香りが強い」「良い匂い」というのは、必ずしも絶対的ではないんですね。
ということで、香りの好みが食い違ったときは、どちらも購入して一件落着、ということでいかがでしょうか?(笑)
参考文献
“臭気強度評価から見た嗅覚の順応と回復過程に関する研究” 大阪大学 山中俊夫 長續仁志
“嗅覚 の生理学” 群馬大学 医学部 高木貞敬
“嗅覚と化学:匂いという感性” 平澤佑啓 東原和
“匂いが脳機能に及ぼす影響” 古賀義彦