【第1回】「いつかコーヒーメーカーを開発したい」
こんにちは、珈琲きゃろっとの内倉です。
僕は、北海道の恵庭という街で、コーヒー屋をやっています。
このページは、アラジンさんのコーヒーブリュワーがきっかけで訪れている方も多いと思うため、当店のことをご存じない方もいると思います。
当店については、以前特集して頂いた記事があるので、興味のある方はご覧ください。
→なぜ小さな町のコーヒー屋がここまで支持されるのか?その秘密を探る
2021年9月。
1本のメールにきゃろっと工房内がざわつきました。
「あの、トースターのアラジンからメールが来た!コーヒーメーカーの開発協力をきゃろっとにしてもらいたいって。」
うちみたいな、北海道の小さなコーヒー屋に?
いたずらメールじゃないよね?
それから、コーヒーブリュワーが発売されるまで、約1年半。
アラジンさんにとっては、2019年のコーヒーメーカーのプロジェクトスタートから数えると丸3年。
このコーヒーブリュワーの開発の裏話と僕の想いを徒然なるままに書かせてもらいます。
「ご自宅で最高の一杯を楽しむには?」
僕はコーヒーの焙煎をはじめて15年ほどとなります。
この15年間、ずっと僕のテーマとなっていることがあります。
それは「ご自宅で最高の一杯を楽しむにはどうしたらいいか?」ということ。
僕の仕事はコーヒー豆の焙煎です。焙煎とは、産地で栽培されたコーヒー豆を加熱する作業です。
淡い緑色をしているコーヒーの生豆は、焙煎されてはじめて茶色のコーヒーとなり、コーヒーらしい香りが生まれます。
しかし、コーヒーは、抽出という工程を経て、液体になってはじめて完成します。
コーヒーは、長く付き合えば付き合うほど、その繊細さに驚かされます。
産地での生産から精製、そして輸送、焙煎、抽出まで…。
どの工程においても、味に影響を与えるファクターが多岐にわたり存在します。
焙煎ひとつをとっても、無限と言えるほどのアプローチがあります。
僕は、焙煎を始めた当初から、どうしたら狙った味づくりができるようになるか。
安定した焙煎ができるかを、考えてきました。
何度も、実験と検証を繰り返し、データを蓄積してきました。
その結果、安定した焙煎をするためには、焙煎に関わるあらゆる項目を可視化し、制御する必要がありました。
シリンダー制御、排気制御、出力熱量、損失熱量、窯の蓄熱量、輻射熱量、風量制御、etc...
ですが、世の中にある焙煎機にはその機能がありませんでした。
そのため僕は、井上製作所さんとテクノロジーサービスさんという長野にある企業と共に、
焙煎機とソフトウエアを開発しました。
世界で当店にしかない焙煎機を使っています。
関連記事:→きゃろっとの焙煎について
この焙煎機によって、できる限りコーヒー豆の細胞を壊さず、適切に熱を加えることで、
雑味が無い、クリーンで甘いコーヒーが完成するようになりました。
しかし、先ほど書いたように、コーヒーは焙煎で終わりではありません。
焙煎のあとに、抽出という工程があるためです。
おいしいコーヒーは、焙煎だけでは終わらない。
「あれ?昨日と同じように淹れたつもりなのに、味が違うな~」
という経験は、コーヒー好きの方なら一度は経験したことがあるでしょう。
好きな道具を使って、自分で条件を変えながら試行錯誤することも、コーヒーの楽しみのひとつ。
コーヒーは自由でいいですし、決まった方法で抽出する必要はありません。
とはいえ、おいしいコーヒーを飲みたいと思っているのは、みんな同じ。
コーヒーは、焙煎からの日数、挽き具合、お湯の温度、注ぐスピード…
どれか一つ条件が変わるだけで、味も変化してしまいます。
毎回同じように、本当に美味しいと思える一杯を淹れるのは、簡単なことではありません。
そのため、店舗で提供しているコーヒーも、当店で経験を3年以上積んだスタッフのみが抽出しています。
店でコーヒーを飲んだお客様には
「やっぱり、プロの淹れるコーヒーは美味しい!」
「同じ豆なのにうちのコーヒーとは別ものみたい」というお言葉をいただくことがあります。
おいしいと言われるのは、もちろんとても嬉しいことです。
反面、僕の中では「ご自宅で、もっとおいしく入れてもらうためには、どうすればいいだろう?」
そう、いつも考えていました。
いつかコーヒーメーカーを開発したい
きゃろっとのコーヒーをご自宅でも、お店の味と同じように楽しんでもらうにはどうしたらいいだろう?
その思いから、きゃろっとのお客様には「珈琲道」というコーヒーの豆知識が書いてある冊子をプレゼントしたり、
メルマガやSNS、ブログなどでコーヒーのことを配信してきました。
ネルフィルターの開発や瓶詰めのボトルドコーヒー「カフェスト」の自社製造も「店の味の再現」を実現するためのアイデアの一つでした。
ハンドドリップによる「きゃろっと式」という抽出方法の推奨もその一つです。
「きゃろっと式」とは、簡単に説明すると、濃く抽出したコーヒーにお湯を足し、コーヒーを完成させる抽出法です。
きゃろっと式で淹れたコーヒーは、よりクリーンで口当たりの柔らかい味わいになります。
※きゃろっと式について詳しくは
第3回の記事を参照
ですが、ハンドドリップに自信がない方や、コーヒーを淹れる時間の取れない方には、「気軽さ」や「安定」という意味で、コーヒーメーカーの使用も長年推奨してきました。
とはいえ、一般的なコーヒーメーカーで「きゃろっと式で淹れたコーヒーと同じ味になるか?」と言われると、さすがにそこまでのクオリティを再現することはできません。
そのため僕は「いつかは、きゃろっと式で抽出できるコーヒーメーカーの開発をしたい。」そう考えていました。
僕の実験してきたデータを反映させたコーヒーメーカーができれば、僕が思う「最高の一杯」をお客様が御自宅で楽しめるんじゃないかと思っていたのです。
そんなきゃろっとのお問い合わせに、一通のメールが入りました。
これこそが、今回一緒にコーヒーメーカーを開発したアラジンさんからでした。
第2回に続く>>