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なぜ小さな町のコーヒー屋がここまで支持されるのか?その秘密を探る【第2回】

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PR※この記事は2018/10/24にライターの松本隆さんに取材を受け作成していただいたインタビューを転用しています

生産者がもたらしたコーヒーの革命。品評会クラスのコーヒーを買い付ける。

食品を選ぶときに産地を気にする人は多い。産地による特徴や、安心感を消費者は気にしている。ではコーヒーはどうだろうか。

コーヒー豆の産地。しかも農園まで気にして選んでいる消費者は少ない。一般的にはそこまで気にしていないだろう。

それもそのはず。農園まで明記されているコーヒーというのは流通量のほんの一握り。消費者は知る由も無いのだ。そんな中で産地まで足を運ぶ熱心なロースターが増えてきている。産地の様子を自らで感じ取り、小さなロットを買い付けてくる。

しかし、一部ではパフォーマンス的に産地に行く場合もあるというのがバイイングをするこういった業界の慣例として存在するのも事実である。

産地に行き何を得るのか。

珈琲きゃろっとの内倉さんに話を伺いました

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■人物紹介
内倉大輔 (株)きゃろっと代表取締役社長
国際的なコーヒー鑑定士であるカッピングジャッジ
Qグレーダーの資格保有
SCAJローストマスターズチャンピオンシップ優勝
(株)Eストアー主催 ネットショップ大賞ドリンク部門1位
エスプレッソチャンピオンシップ1位など数々の受賞歴を持つ

品評会に出品する前に買い付ける事で得られる価格的メリット

___コーヒー豆を産地で直接買い付けに行くメリットというのはあるんですか?

まず、生産者の顔を見ることができるのが大きいですよね。自分たちが販売しているコーヒーは、どんな人がどんな想いで創られているのかを知ることができる。

作り手の顔が見えるコーヒーは、お客様も安心して飲むことができると思います。また、直接産地に行くことで、国際品評会で入賞するクラスの品質のコーヒー豆を
お客様に通常価格で提供することができるというメリットがあります。

現在、コーヒーの品評会でもっとも権威があるのは「カップ・オブ・エクセレンス(以下COE)」という品評会です。COEで入賞するためには、カッピングという品質評価を行い86点以上のスコアが必要です。

COEに入賞したコーヒー豆は、インターネットオークションにかけられ世界中のロースターや商社が落札します。ただ、近年、COEに参加するロースターや商社が増え、価格が跳ね上がっているという現実もあります。

COE経由で販売されるコーヒーは小売価格で100g当たり2,000円~8,000円位になってしまいます。もちろん、COEの上位クラスのコーヒー豆は、その価値に見合う品質のコーヒーなのですが、日常的に飲むには、ちょっと厳しい価格です。

でも、産地に直接買い付けに行けば、86点以上の品質のコーヒーを適正な価格で買うことができます。

農園主にとってCOEという品評会は、自分たちのコーヒーの品質を世界に広めるために重要なツールです。

ですが、彼らの多くにとって最も重要なのは、COEで自分たちの農園を知ってもらうことで、僕らのようなロースターと継続的に良い関係を気づくことだと話してくれました。

現在では、日本にいても、商社さんが品質の高いコーヒーを仕入れてくれています。ただ、産地に行くと、膨大な数の農園のコーヒーを飲むことができます。

その中には驚くほど品質の高いコーヒー豆もあります。膨大なサンプルの中から、本当に良い品質のコーヒーを見つけ出すためにはコーヒーの品質をしっかりと見極めるものさしが必要なんです。

___内倉さんが、Qグレーダーなどの資格を取得したのは、沢山のサンプルの中から、高品質なコーヒーを選ぶためということですね。

しっかりとした品質を見分けて買い付けることができれば、それは直接お客様のメリットになります。

例えば、2015年2月にホンジュラスに買い付けに行った際、僕は13の農園のコーヒーを買い付けたのですが、その後、5月に行われたCOEでは、僕の買い付けた農園のうち10銘柄がCOEに入賞しました。

うち一つの農園はCOEで準優勝となり、ものすごい高値がつきました。ですが、僕が買い付けたときは、COEを通していないので適正価格で買わせてもらっています。

その金額はもちろん産地の方も納得をしてくれている金額です。産地に買い付けにいくことで、COEで入賞するクラスのコーヒー豆を通常の価格でお客様に提供することができるんです。これは、僕にとっても、お客様にとっても嬉しいですよね。

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マイクロミル革命がもたらした、コーヒーの新しいビジネスモデル。

___コーヒーの生産者というと、発展途上国の貧しい人たちを想像しますが、実際のところどうなんですか?

僕ら日本人は、発展途上国と聞くと「かわいそうだ」「貧しいんだ」っていうラベルを張ってしまう癖があるんですが、実際は人それぞれだと思います。

生産国も日本と同じで、幸せな人もいれば落ち込んでる人もいます。国によって文化も違えば、考え方も違います。

良い経営をしている農園主は裕福に暮らしているし、良い品質のコーヒーを作っていてもコストをかけ過ぎて、採算を取れていない農園主もいると思います。

日本の経営者と同じです。ひとくくりにはできません。

もっというと、貧しくても楽しく暮らしている人たちもいっぱいいます。「貧しい=かわいそう」っていうのは、僕らが勝手に作り上げた価値観であって、そのものさしだけで決めつけるというのは逆に失礼というか。

ただ、ひとくくりにはできませんが、スペシャルティコーヒーに携わっている生産者たちは誇りをもって楽しく暮らしている方たちが多いのは事実です。

例えば、現在コスタリカでは、世界でもトップレベルの品質のコーヒーを生産しています。なぜ急速にコスタリカのコーヒーが発展を遂げたのかというと、2006年頃から始まった「マイクロミル革命」によるものです。

___マイクロミル革命ですか。「革命」という言葉があるということは、よほど大きな転換期だったことは想像できますね。

はい。コーヒー農園の在り方そのものが変わるような大転換です。

「ミル」というのは、収穫したコーヒーチェリーを乾燥や脱穀する精製工場のことを言います。なので、マイクロミルというのは「小さな精製工場」というような意味です。

従来までのコーヒー生産者は、収穫したチェリーを最寄りの大きなコーヒーの精製工場まで持っていき、そのチェリーを売ることで賃金を得ていました。

チェリーは相場で決められるため、生産者の取り分はわずかなものでした。ですが、ここ十数年ほどの間に大きな転換があったんです。

___それがマイクロミル革命ですか?

はい。
自分たちの収穫したチェリーを自分たちの手によって精製することで、すばらしいテロワールのコーヒーを創り出す生産者が増えてきたんです。

量は少なくても上質で特徴のあるものを創るということですね。マイクロミル革命によって「生産すること」から「創作すること」へのパラダイムシフトが起こりました。

___テロワールという言葉を聞くと、なんだかワインに似て感じますね。

そうですね。「マイクロミル革命」は土壌や地域ごとのテロワールを楽しむワインの生産国のような新しいコーヒーのモデルって言うとわかりやすいかもしれません。

以前は、自分の農園で収穫されたチェリーを地元の大きな設備を持っている精製工場に運び、収量によって賃金を得ていました。その時の彼らの働く目的は「賃金を得ること」これにつきます。

でも、マイクロミル革命によって、品質の良いコーヒー豆を栽培する生産者が増えました。品質の高いコーヒーを創れば、それに対する適正な対価でコーヒー豆買ってもらえるため、経済的に豊かになるのは間違いありません。


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最大のメリットは「人としての繋がり」

___ワインのようなビジネスモデル。それを実感しただけでも、産地に行った価値がありますね。

そうですね。でも、彼らが活き活きと働けている理由は、経済的な豊かさ以外にも大きな理由がもう一つあって、それは「世界とのつながり」を感じながら働いていることです。

自分たちの手でコーヒー豆を精製し、製品を作る、ということになってからは、僕のように、世界中のロースターが直接農園に訪れるようになりました。

僕は、産地に行く際は、きゃろっとのコーヒーを召し上がったお客様からのご感想や、焙煎したコーヒー豆を生産者に渡すのですが、彼らは、ものすごく喜んでくれます。

今の彼らは、賃金を得るという目的の他に「コーヒーを飲む顧客に喜んでもらうため」にも働いています。だから、とても楽しそうに仕事をしているし、おいしいコーヒーを創るために研究を惜しみません。

コスタリカに、モンテコペイというマイクロミルがあります。そこの農園主のエンリケという生産者に初めて話を聞いたときは、感動して鳥肌が立ちました。

彼は、おいしいコーヒーを創るために、様々な実験を繰り返しています。

科学的に生産から精製の全工程を細かく考察し、研究しています。従来までの習わしや勘だけに頼るのではなく、自分自身の手で実験し、検証する。

彼は農園主で、僕はコーヒー屋だけど、やってることは一緒なんです。そして、エンリケに限らず、コスタリカの生産者は、家族や働いているワーカーさんをとても大切にしています。

さらに、彼らの凄いところは、周りの農園主はライバルではなく「仲間」であるということです。彼らは自分たちのノウハウを他の農園主に教えることをためらいません。

自分が努力して見つけた情報やノウハウを惜しげもなく、他の生産者と共有するんです。

そうすることで、コスタリカ全体のコーヒーの品質が上がりコスタリカのコーヒーの価値が上がり、長い目で見ると自分たちのメリットにつながると考えているからです。

また、単純に彼らにとって、同じ立場で試行錯誤をする生産者たちは、かけがえのない仲間であると言っていました。

血はつながっていませんが、それはまるで家族のような関係です。

そしてエンリケは僕に対しても「もし、ダイスケが『こんなコーヒーを作りたい』というのがあれば、なんでも言ってほしい。僕は、それを生産するから。ダイスケは僕のコーヒーを焙煎して日本の皆さんに届けてほしい。おいしい一杯のために、一緒にコーヒーを作ろう。僕たちは、コーヒーで繋がるファミリーだから。」

そう言ってくれたときに、ありがたさに胸が熱くなりました。彼との出会いで、改めてその想いを強く心に刻んだことは今でも忘れません。きゃろっとで大切にしているのも「コーヒーの品質」と「人とのつながり」です。

「働いているスタッフが何かを犠牲にすることなく、楽しく働けること」というのをとても大切に考えています。「働きに行く」という感覚ではなくて「普段の生活の延長線上に、働く場所がある」という感覚です。家の掃除や子育てと同じような感覚で、自然体で働く環境を整えることを大切に考えています。

きゃろっとの理念は「関わるすべての人がハッピーであること」

それは、生産者、取引先、従業員、そしてお客様。関わる人たちが「きゃろっとと関われてよかった」と思えるような会社にしたいと思っています。誰が欠けても、このコーヒー豆はお客様の元にお届けすることはできません。

生産者はもちろん、生産者と僕をつなげてくれた商社の方。現地のインポーターの方。コーヒーには、沢山の人たちの気持ちが込められています。

遠い生産地から、日本の、恵庭市にある、この小さな焙煎工房に届いて、全国のお客様に召し上がって頂けてるわけです。そう考えると、身震いするほどありがたいなぁ、と思えてくるわけです。

いつも当たり前のようにそこにあるようだけど、それは、全然当たり前じゃなくて、とても尊いものなんだよなぁ。っていうことを産地を訪問するたびに強く思います。僕らのところまで繋げてくれた、すべての人たちに感謝しようって。
 
そうやってつなげて頂いたバトンは、僕らが最高のスタッフと一緒に、最高のお客様の元へ、最高の状態で、感謝と共に届けようって思っています。

僕はきゃろっとを利用しているお客様は「僕と同じコーヒー好きの仲間」という風に考えています。コーヒーっていう素晴らしい飲み物を通して同じように穏やかな時間を共有する仲間が増えればいいな。と思います。

生産者の顔が見える。

これだけで安心感につながる事は間違いないだろう。しかし、本当の意味での安心感は「生産者の心が見える」ことではないだろうか。

信頼した生産者から生豆を仕入れる。信頼したロースターが焙煎をする。

それが、ユーザーにとって最良の環境ということだろう。

生産者からエンドユーザーまでが繋がりを感じられるビジネスモデルこそ、安心を生み出す原動力に他ならない。

第3回に続く

■筆者 松本隆
北海道遠軽町出身
食品業界に10年以上勤め退社。
その後、九州・沖縄の水産系の市場、工場や酒蔵を巡り、
福岡、広島、京都、奈良、大阪、新潟と北上。
北海道の食の流通や小売り、飲食店にコンサルタントとして関わる。

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